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「パートタイム・有期雇用労働法」の改正で変わること

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同一労働同一賃金のガイドラインの適用により、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間の待遇について、不合理な差別を設けることが禁止されます。

 

厚生労働省 同一労働同一賃金ガイドライン

 

「パートタイム労働法」は、改正後は有期雇用労働者も対象になり、「パートタイム・有期雇用労働法」に名称が変更されます。

改正「パートタイム・有期雇用労働法」の施行後は、正社員とパート・有期雇用労働者との間に不合理な待遇の差がある場合は、事業主は不合理な待遇格差の解消に向けた措置を講じる必要があります。

パートタイム・有期雇用労働法改正の背景

非正規で働く人の割合は、平成29年で37.3%(厚生労働省 改正後のパートタイム・有期雇用労働法)となっています。

非正規で働く人は、正社員と比べて各種の手当や福利厚生で不利な状況の人が多く、仕方なく非正規として働いている人も多いといわれています。

 

厚生労働省発行のパートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書に、「同一企業内における正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられるようにすることで、多様で柔軟な働き方を選択できるようにします。」とあるように、「パートだから」とか「有期雇用だから」といった待遇差をなくすことはこれからの日本に必要です。

 

改正法の施行後は、パートタイム、有期雇用労働者、派遣労働者といったことのみを理由にした待遇差は禁止されます。

正社員とパートタイム・有期雇用労働者とで待遇に違いを設けている場合は、待遇の差について説明を求められたら説明しなければなりません。

また、行政による事業主への助言及び指導、裁判外紛争解決手続きの整備も行われます。

 

短時間・有期労働者・派遣労働者に対する同一労働同一賃金ガイドライン

同一労働同一賃金ガイドラインには、正社員と非正社員(パート・アルバイト・有期雇用・派遣労働)との間に待遇差がある場合について、どのような待遇差が不合理であるかの具体例が示されています。

待遇差があることのみをもって不合理とするわけではなく、様々な事情をもって総合的に考慮されます。

 

厚生労働省 同一労働同一賃金特集

 

賃金の決定基準・ルールについて、正社員と非正社員との間に相違がある場合の理由が、「将来の役割が違うため」とか「非正規社員だから」とか「正社員と非正社員とでは決定基準が別だから」といった理由は認められません。

賃金の決定基準・ルールの相違は、抽象的ではなく、具体的でなければなりません。

定年後に再雇用された有期労働者についても、パートタイム・有期雇用労働法の対象になります。

 

福利厚生施設の利用や、教育訓練についても、不合理な待遇差を設けないようにしなければなりません。

例えば、「食堂や更衣室は正社員のみ使用できる」といった差別は認められません。

 

平成30年6月1日、「ハマキョウレックス事件」の最高裁判決では、正社員と契約社員との間に差を設けていることは不合理とされました。

この事件は、ハマキョウレックスという運送会社で働く有期雇用労働者が、正社員との間に待遇差があるのはおかしいとして会社を訴えた事件です。

正社員には、各種手当(無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当)が支給されていたのに対して、有期雇用労働者には、一部の通勤手当のみが支給されていました。

同じ仕事をしているのに差を設けるのは無効として訴えた結果、住宅手当を除く手当について、正社員との間に差を設けるのは不当といった判決が下されました。

 

不合理な待遇差をなくすための規定を整備

短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇を設けることが禁止されます。

均衡待遇(不合理な待遇差の禁止) ①職務内容、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情、といったことを考慮して不合理な待遇差は禁止になります。
均等待遇(差別的取り扱いの禁止) ①職務内容、②職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合は、差別的な取り扱いが禁止になります。

 

改正後は、「均衡待遇規定の明確化」と「均等待遇規定」について、パート労働者・有期労働者・派遣労働者で統一的な整備が必要になります。

それぞれの待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確にするといった「均衡待遇規定の明確化」が求められます。

今までは有期雇用労働者に対してなかった「均等待遇規定」が、有期雇用労働者も対象になります。

 

労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

パート労働者・有期労働者・派遣労働者は、改正後は待遇差の内容や理由について、事業主に説明を求めることができます。

 

パート労働者・有期雇用労働者を雇い入れた際に、賃金、教育訓練、福利厚生施設、正社員転換の措置について事業主は説明しなければなりません。

パート労働者・有期雇用労働者から求めがあった場合は、正社員との待遇差の内容・理由、待遇決定に際して考慮したことを、事業主は納得のいくよう説明しなければなりません。

説明を求めた労働者に対し、不利益取り扱いをしてはならないことが法律で決められました。

 

パート労働者・有期雇用労働者から説明を求められたときに、合理的な説明ができない場合は、待遇差が不合理と判断される可能性があります。

説明については、パート・有期労働者が内容を理解できるように、資料を使って説明することを基本としますが、就業規則を閲覧させて説明することでもよいとされます。

 

行政による事業主への助言・指導等や行政ADRの規定の整備

行政ADR(裁判外紛争解決手続き)は、労働紛争を裁判によらないで解決する方法です。

 

パート労働者・有期雇用労働者・派遣労働者の均等・均衡待遇に関する紛争は、行政ADRの対象となります。

また、調停については無料で非公開により行われます。

 

紛争調停委員会の調停委員には、弁護士や大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家が想定されています。

 

改正パートタイム・有期雇用労働法の適用時期

改正後のパートタイム・有期雇用労働法は、大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日から適用されます。

 

中小企業というのは、「資本金又は出資総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主」をいいます。

 

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