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イビデン事件(グループ会社社員のセクハラと親会社の義務)

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イビデン事件について調べました。

社労士になってみると、今も3号業務より1号、2号業務の方が需要があるということが分かります。

しかし、いつ相談があるか分からない以上、労働関係の判例を知っておくことは無駄になりません。

 

イビデン事件は、グループ子会社の社員のセクハラ行為が、グループ会社のコンプライアンス相談窓口を設けていた場合に、セクハラを受けた従業員が求めた対応を親会社がしない事実をもって信義則上の義務違反が認められるかが問われた裁判です。

イビデン事件の概要

イビデン社(以下I社)の子会社であるイビデンキャリア・テクノ(以下T社)の契約社員としてイビデン社の事業場内で就労していたX子さんが、同じ事業場内で就労していた他の子会社イビデン建装(以下K社)の社員Yから、繰り返し交際を要求され、自宅に押し掛けられるなどしたため、上司にやめるよう注意してほしいと相談したが、その後もYの行為がやむことはなく、X子さんは平成25年10月12日、T社を退職した。

 

ちなみに、X子さんは、平成21年11月頃からYと交際を始めて深い関係にあったが、平成22年2月以降、関係が疎遠になり、7月頃にYに対して関係を解消したい旨の手紙を渡した。

Yは諦めきれなかったため、X子さんの自宅に押しかけるようになった。

 

Yは、X子さん退職後も、X子さんの自宅近くに自動車を停車させたため、X子さんの同僚だったZ子さんは相談窓口に対して事実確認をしたうえで対応するよう要求した。

I社は、T社とK社に依頼してYと関係者の聞き取りを行わせたが、事実はないとの報告を受けたため、X子さんに対する事実確認を行わず、Z子さんに対して申し出に係る事実は確認できないと報告した。

 

X子さんは、親会社I社の相談窓口になされた相談に対する対応が、信義則上の義務に違反するとして、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料300万円の支払いを求めた。

 

判決

名古屋高裁は、I社の信義則上の義務違反を認め、X子さんの請求を一部認める判決を下した。

I社は、これを不服として上告した。

判決では、I社のXに対する事実確認の対応をしあかったことをもって信義則上の義務違反があったとすることはできないとし、原判決中I社敗訴部分を破棄した。

前項の部分につき、X子さんの控訴を棄却し、控訴費用及び上告費用はX子さんの負担とする。

 

参考文献 「労働判例 2018年9月1日号  産労総合研究所」

 

今回の事件から学ぶこと

今回の事件は、子会社の従業員にされたセクハラ行為が、親会社の相談窓口に持ち込まれ、直接の雇用関係にない子会社のセクハラ被害が信義則上の義務違反となるかが争われました。

親会社の信義則上の義務違反は破棄されましたが、判決では、I社は、X子に対し、指揮監督権がなく、X子から労務の提供を受ける関係にあったのでもないとされました。

 

I社が整備した法令順守体制(コンプライアンス相談窓口を設けた)の仕組みの具体的内容が、使用者として負うべき雇用契約上の付随義務をI社自らが履行し又は直接間接の指揮監督の下で勤務先会社に履行させるものであったとみるべき事情はない

 

ただ、I社は、コンプライアンス相談窓口を設けていたことから、法令違反行為によって被害を受けた従業員が相談窓口に相談した場合、状況いかんによっては、申し出をした者に対して当該申し出に係る相談の内容に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。

 

 

今回の裁判の結果は、親会社の信義則上の義務違反は否定されましたが、子会社従業員に対しても親会社の信義則上の義務が問われることがあるということが示されました。

相談窓口を設置したからには、相談者を放置せず、紳士的な対応を心掛ける必要があります。

 

 

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