厚生年金年金受給者のうち、一定以上の収入がある人を対象にした「在職老齢年金」制度。
在職老齢年金について書いていたら、在職老齢年金の廃止を検討しているというニュースを知りました。
政府・与党は、一定以上の収入のある高齢者の厚生年金支給額を減らす「在職老齢年金制度」廃止の検討に入った。
政府は、意欲のある高齢者が働き続けられるよう制度改正する方針を打ち出しているが、在職老齢年金には支給されるはずの厚生年金が減額され、高齢者の就労意欲をそいでいるとの指摘がある。
高齢者の就労を後押しするには制度廃止が必要と判断した。
来年の通常国会に厚生年金保険法などの改正案の提出を目指す。
毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20190418/k00/00m/010/264000c
在職老齢年金とは
厚生年金では、報酬が一定以上の被保険者に対して、年金額の全部または一部の支給停止が行われることがあります。
これが「在職老齢年金」と呼ばれるものです。
そもそも老齢に対して年金が支払われるのは、老齢になったら仕事は退職・または現役時代より少なくなるのが一般的だからです。
であればこそ年金支給開始年齢に合わせる形で継続雇用の制度の整備が図られてきたわけです。
今までと同じような報酬をもらって年金を受け取るというのは、やはり問題がある(年金制度自体問題だらけですが)ので、一定額以上の報酬がある人は全部または一部の年金を支給停止されるというわけです。
といっても支給停止になるのは厚生年金だけです。
国民年金まで支給停止されると思ってる人が多いのですが、そんなことはなく、国民年金には影響がありません。
若い頃から今まで自営業の人は、気にせず自営で稼ぎ続けたほうが良いケースも多かったりします。
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65歳未満の在職老齢年金と65歳以上の在職老齢年金
在職老齢年金は、さらに「65歳未満の在職老齢年金」と「65歳以降の在職老齢年金」とに分けられますが、これは65歳未満と65歳以上とで受け取る老齢厚生年金が違うからです。
現在の老齢厚生年金は、65歳から受け取れることになっていますが、以前は60歳から受け取れていました。
急に年金開始年齢を引き上げると反発が多いことから、60歳から65歳まで受け取れる年金を「特別支給の老齢厚生年金」として設けて、段階的に引き上げることにしたのです。
ちなみに65歳から受け取れる老齢厚生年金は、「本来の老齢厚生年金」などと呼んで分けられます。
年金の受給要件も特別支給の老齢厚生年金と本来の老齢厚生年金とでは、違う点があるので注意です。
このように分けることが制度をより複雑にしているのですが、さらにこの「65歳未満の在職老齢年金」と「65歳以上の在職老齢年金」とは計算方法が違うので、もっと複雑になります。
65歳未満の在職老齢年金の計算
65歳未満が受け取れる厚生年金の計算をする前に、計算の基礎となる「基本月額」と「総報酬月額相当額」について説明します。
基本月額とは、加給年金を除いた特別支給の老齢厚生年金月額をいいます。
加給年金とは、配偶者や子供がいる場合に厚生年金に加算される年金です。加給年金は、配偶者と子供の人数によって加算されます。
例えば、配偶者1人、子供1人の場合はそれぞれにつき22万4500円が加給年として加算されます。
総報酬月額相当額とは、標準報酬月額に「過去1年間の標準賞与額を12で割った額」を足したもののことです。
健康保険や厚生年金では、毎月の賃金を細かく計算すると面倒なので、段階に分けて当てはまる数値を使いますが、この数値を標準報酬額と呼んでます。
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基本月額と総報酬月額相当額の合計額が28万円以下の場合
基本月額と総報酬月額相当額の合計額が28万円以下の人は、65歳未満の老齢厚生年金(60歳代前半の老齢厚生年金)を全額受け取れます。
総報酬月額が47万円以下の場合
基本月額と総報酬月額相当額の合計額が28万円を超えていて、総報酬月額相当額が47万円以下である人は、基本月額が「28万円以下」か「28万円超」かで計算式が違います。
総報酬月額相当額が47万円以下で、基本月額が28万円以下の人
(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)×1/2が支給停止額
となります。
例えば、年金額が216万円で、総報酬月額が20万円で、年間標準賞与額が48万円の人がいたとします。
総報酬月額相当額は、20万円+50万円÷12か月なので、答えは24万円です。
基本月額は216万円÷12か月で、18万円です。
後は計算式に当てはめればいいだけなので、(24万円+18万円-28万円)×1/2=7万円となります。
この人は7万円の年金が支給停止されます。
総報酬月額が47万円以下で基本月額が28万円を超えている人
総報酬月額が47万円以下で基本月額が28万円を超えている人の計算式は、
総報酬月額相当額×1/2が支給停止額
となります。
総報酬月額相当額が24万円で基本月額が30万円だとしたら、12万円が支給停止されます。
総報酬月額相当額が47万円を超える場合
総報酬月額相当額が47万円を超える場合は、さらに基本月額が28万円以下か、28万円超かで計算式が異なります。
総報酬月額相当額が47万円超えて、基本月額が28万円以下の人
この場合の支給停止額は、
(47万円+基本月額-28万円)×1/2+(総報酬月額相当額-47万円)
です。
例えば、年金額240万円、標準報酬月額40万円、標準賞与額120万円の人の場合です。
まず、総報酬月額相当額が、40万円+120万円÷12で、50万円です。
基本月額は240万円÷12なので、20万円です。
これらの数値を当てはめて計算すると、
(47万円+20万円-28万円)×1/2+(50万円-47万円)なので、答えは22万5千円です。
総報酬月額相当額が47万円を超え、基本月額が28万円を超える人
この場合の支給停止額は、
47万円×1/2+(総報酬月額相当額-47万円)
総報酬月額相当額が50万円、基本月額が30万円の人であれば、
支給停止額の計算は、47万円×1/2+(50万円-47万円)となります。
この人の支給停止額は、26万5千円となります。
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65歳以上の在職老齢年金
65歳以上の在職老齢年金の計算の方が簡単です。
基本月額と総報酬月額相当額については、意味は同じです。
基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生年金月額です。
総報酬月額相当額は、標準報酬月額に過去1年間の標準賞与額を月額に直したものです。
65歳以上の在職老齢年金は、基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円以下かどうかを見ます。
47万円以下の場合は、年金が停止されることなく、全額支給されます。
47万円を超える場合は、支給停止され、計算式は以下の通りです。
(総報酬月額相当額+基本月額-47万円)×1/2
例えば、年金額が360万円で、標準報酬月額相当額が50万円の人がいたとします。
基本月額が30万円なので、計算式に当てはめると、
(50万円+30万円-47万円)×1/2となり、答えは16万5千円となります。
日本年金機構で在職老齢年金の解説資料がダウンロードできます。
ただ、支給停止調整変更額及び支給停止調整額が以前のままです。
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.html
また、年金について知りたい人のために、マンガで解説しているページのリンクを張っておきます
https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/glossary/sa/sa_zaisyokuroureinenkin.html