労働条件の変更をする場合は、労働者と使用者が合意して行います。
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる(労働契約法第8条)。
しかし、特に労働者にとって不利益な変更をするときは、法律で制限がされたりします。
労働契約の5原則
労働契約法では、労働契約の原則として「労働契約5原則」が定められています。
労使対等の原則・・・労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
均衡考慮の原則・・・労働契約は、労働者及び使用者が就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
仕事と生活の調和への配慮の原則・・・労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
信義誠実の原則・・・労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
権利濫用の禁止の原則・・・労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使にあたっては、それを濫用することがあってはならない。
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就業規則の不利益変更
使用者が一方的に就業規則を変更して、労働者の労働条件を引き下げる行為は、原則として禁止されています。
ただし、次の場合には、就業規則を変更することができるとされています。
①その変更が以下の事情に照らして合理的と判断される場合です。
1.労働者が受ける不利益の程度
2.変更する就業規則が妥当かどうか
3.労働条件を引き下げる必要があるのか
4.労働組合等との交渉の状況
②使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させていることです。
①と②の条件を満たすときは、労働契約の内容である労働条件は、変更後の就業規則に定めるところによるとされています。
また、
就業規則の作成や変更にあたっては、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表するものの意見を聴かなければならないことになっています(労働基準法第90条)。
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合は、使用者が合理的な労働条件を定めている就業規則を周知させている場合において、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によるものとされます。
ただ、労働者と使用者が、労働契約で就業規則とは異なる労働条件を合意していたときは、その労働契約が就業規則で定める基準以上であれば、その合意によるものとされます。
もし仮に、就業規則で定める基準に達していない労働条件を定めた労働契約は、達していない部分が無効となり、無効部分は就業規則で定める基準になります。
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出向・転勤
使用者が労働者に対して出向を命令することに対し、有効か無効かどうかといったことが議論されることがあります。
出向というのは、一般的には会社に籍を置いたまま別会社で仕事に従事することです。
使用者と労働者との間に出向ができる取り決めがある場合は、その出向命令が必要性、対象労働者の選定に係る事情に照らして権利の濫用と認める場合には、その命令は無効となります(労働契約法第14条)。
過去には、希望退職の勧奨を断った労働者が、自主退職をさせる目的で出向させられた、ということが起こり、出向命令自体が無効とされた例もあります。
転籍型の出向の場合は、本人の同意が必要になります。
就業規則に転勤が記載されていれば、労働者は一般的に転勤命令に従うことになります。
転勤や配置転換は、労働者の能力を伸ばす目的や適性を見るために行われることもあるため、労働者にとっても利益があります。
しかし、転勤や配置転換が不当な動機や目的から行われた場合、又は命令が労働者に対して通常受け入れるべき程度を著しく超えて不利益を被る場合は、当該命令は権利の濫用にあたるとされます。
また、育児・介護休業法では、転勤や配置転換に配慮義務が定められています。
事業主は、従業員に就業場所の変更を伴う配置の変更を行おうとする場合に、その就業場所の変更によって子育てや介護が困難になる従業員がいるときは、当該従業員の子育てや介護の状況に配慮しなければならない。
過去には、配置転換が権利の濫用にあたるとして無効とされた裁判例もあります。
まとめ
・労働契約の変更は、労働者と使用者の合意によって行うのが原則です。
・労働契約には、労使対等の原則、均衡考慮の原則、仕事と調和への配慮の原則、信義誠実の原則、権利濫用の禁止の原則といった5原則があります。
・使用者が一方的に就業規則の不利益変更をすることは原則できませんが、変更が事情に照らして合理的、かつ変更後の就業規則を周知させている場合は認められることがあります。
・出向や転勤の命令は、必要性や労働者の選定に係る事情に照らして、権利の濫用と判断されることがあります。