厚生年金保険と健康保険では、被保険者が受ける毎月の報酬を段階捌に区分した「標準報酬月額」にあてはめて事務処理をします。
標準報酬月額は、資格取得時決定によって入社したときに決定します。
その後は毎年1回見直しがありますが、これが定時決定といわれるもので、この場合に「算定基礎届]を提出します。
標準報酬月額の報酬の範囲
標準報酬月額は、健康保険では1等級58,000円から50等級1,390,000円までありますが、厚生年金保険では1等級の88,000円から31等級の620,000円までしかありません。
厚生年金保険では、被保険者が受ける報酬をこの標準報酬月額にあてはめて事務処理が行われていきます。
厚生年金では、賃金、給料、手当などの名称に関係なく、事業主が労働の対価として被保険者に支払う全てのものが報酬とされます。
報酬にならないのには、臨時に支払われるもの、年3回以下の賞与や期末手当、退職金といったものがあります。
以下はいずれも報酬となります。
通勤手当 | 定期券や回数券として会社が負担する通勤手当は、1ヶ月当たりの額を報酬月額に参入します |
休業手当 | 休業手当は、労働に対する報酬ではありませんが、雇用関係があって定期的に支払われれば報酬となります |
年4回以上の賞与 | 賞与という名称であっても、年に4回以上支払われれば報酬となります。 |
現物給与 | 現物給与であっても報酬です。報酬の額は、その地方の時価によって厚生労働大臣が定めるとされています |
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新規の被保険者は「資格取得時決定」
新しく厚生年金保険の被保険者になった人がいるときは、事業主は「被保険者資格取得届」に標準報酬月額を記入して5日以内に提出します。
このことは健康保険法の「健康保険の保険料(標準報酬月額、賞与額と保険料率)」でも紹介していますが、厚生年金も同じです。
入社したときに決定された標準報酬月額は、決定時期が1月~5月の場合はその年の8月まで適用され、決定時期が6月~12月の場合は翌年の8月まで適用されます。
8月まで適用されるのは、定時決定が9月から翌年の8月までの適用期間となっているからです。
標準報酬月額の決定には、資格取得時決定、定時決定、随時改定、育児休業・産前産後休業終了時改定とったいものがあります。
それでは、各標準報酬月額の決定について解説します。
毎年行われる標準報酬月額の決定が「定時決定」
毎年7月1日現に使用される被保険者について、事業主は4月から6月の3月間の報酬月額をもとに「報酬月額算定基礎届」を7月10日までに提出し、これにより標準報酬月額が決められます。
この標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月まで原則として適用されます。
ただし、6月1日から7月1日までに被保険者の資格を取得した人や、随時改定、育児休業等・産前産後休業終了時改定により7月から9月までのいずれかの月から標準報酬月額が改定されるときは定時決定を行いません。
報酬月額の算定について
標準報酬月額は、4月・5月・6月に受けた報酬総額を月数で割って得た額を報酬月額として決定します。
報酬月額は、支払基礎日数(※)が17日以上の月の報酬月額を合計して、対象となった月数で割って計算します。
たとえば、4月・5月・6月の支払基礎日数が、それぞれ20日・21日・16日だったとししたら、17日未満の6月を除く4月と5月の報酬で報酬月額を求めることになります。
報酬月額の算定のまとめ
・4月から6月のうち支払基礎日数が17日未満の月は、報酬月額の計算対象から除かれる
・報酬の範囲に入らないものは除外し、現物給与は金銭に換算して算定する
※支払基礎日数について
支払基礎日数とは、給料や賃金を計算する基礎となった日数をいいます。
月給で報酬が支払われている場合は、その月の暦日数が支払基礎日数になります。
報酬が月末締めで、翌月払いの場合は、前月の暦日数が支払基礎日数となります。
欠勤すると報酬が減額される月給の場合は、事業所が定めた日数から欠勤日数を控除して支払基礎日数を求めます。
日給・時給制の人は、各月の出勤日数が支払基礎日数になります。
一般社員の4分の3未満しか勤務しない短時間労働者の支払基礎日数は11日となります。
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「随時改定」は年の途中に報酬月額が大きく変動したときに対象となる
標準報酬月額は、年に1回の定時決定がありますが、それ以外にも昇給等によって報酬が変動した場合は「随時改定」という標準報酬の等級改定が行われます。
随時改定は、以下の①から③のいずれにも該当した場合に行われます。
①継続した3月間に受けた報酬の額を3で割った額が、その者の標準報酬月額と比較して2等級以上の差が出たとき
②報酬月額の大きな変動があった以後、継続した3カ月間の各月の報酬支払基礎日数が17日以上あるとき
③昇給や降給によって固定的賃金に報酬月額が変動したこと(残業など変動的賃金が原因の場合は行わない)
随時改定に該当して標準報酬月額が改定されるときは、変動月から4か月目に改定されます。
たとえば、今月(2018年11月)から昇給によって固定的賃金が大幅に変わった(2等級以上)として、その後3カ月間同様の報酬を得たとしたら、変動月から4か月後の2月から改定されることになります。
また、支払基礎日数が1月でも17日未満だと随時改定は行われません。
年間平均による随時改定
定時決定では残業手当が含まれますが、随時改定では残業手当が含まれないので、対象となる時期に残業を多くするかで標準報酬月額が違うことがありました。
このことに対処するために、過去1年の月平均標準報酬を用いた随時改定があります。
年間平均による随時改定の要件
1.現在の標準報酬月額と通常の随時改定による標準報酬月額との間に2等級以上の差がある
2.次の①と②との間に2等級以上の差があって、業務の性質上例年発生し、報酬月額の変動も例年発生すること
①通常の随時改定による標準報酬月額
②年間平均額から算出した標準報酬月額
3.現在の標準報酬月額と年間平均額から算出した標準報酬月額との間に1等級以上の差があること
4.被保険者が同意していること
提出書類
・被保険者報酬月額変更届(健康保険・厚生年金)、70歳以上被用者月額変更届(厚生年金保険)
・「年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用) 」
・「被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等(随時改定用)」(健康保険・厚生年金保険)
日本年金機構 「随時改定の際、年間報酬の平均で算定するとき」
産前産後休業終了時の改定・育児休業等終了時の改定
産前産後休業や育児休業の終了した時、育児等によって報酬が低下することがありますが、こういった場合にも申出によって標準報酬月額の改定を行うことができます。
産前産後休業・育児休業等終了時改定は、2月を経過した日の属する月の翌月から改定され、たとえ2等級以上の差がなかったとしても改定されます。
対象になる3カ月間の間に支払基礎日数が17日未満の月があるときは、その月を除外して計算します。
改定された場合であっても、厚生年金保険の年金計算では休業する前の標準報酬月額になります。
産前産後休業期間(産前42日、産後56日のうち、妊娠または出産により労務に服することができなかった期間)の厚生年金保険料は、「産前産後休業取得者申出書・変更届」を提出することによって被保険者と事業主の保険料が免除されます。
この免除期間については、保険料を納めた期間として厚生年金に反映されます。
満3歳未満の子を養育するために育児休業をする被保険者は、育児休業を開始した月から3歳になるまで、「育児休業等取得者申出書・終了届」を提出することによって被保険者と事業主の保険料が免除されます。
この免除期間についても、被保険者資格に変更はなく、また保険料を納めた期間として年金が計算されます。
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標準賞与の決まりごと
被保険者が労働の対償として受けるもののうち、3月を超える期間ごとに受けるものを賞与といいます。
賞与を受けた額の1,000円未満を切り捨て、標準賞与額は決定されますが、150万円を超える場合は150万円となります。
同月に賞与が2回以上支給されるときは、合算した額で上限に達しているかをみます。
賞与の支給をしたときは、事業主は5日以内に被保険者賞与支払届を提出します。