心理的負荷が原因とされる精神障害、自殺の労災請求の問題は、「心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23.12.26 基発1226第1)」に基づいて業務かどうかが判断されてましたが、令和5年9月1日に見直されました。
令和4年度には2,683件(厚生労働省「過労死等の労災補償状況」)に上った精神障害の労災請求数は、年々増加しており、社会的な背景もあって検討されることになりました。
厚生労働省では「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、本日9月1日付で厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛てに通知しました。
この改正は、近年の社会情勢の変化等に鑑み、最新の医学的知見を踏まえて「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」において検討を行い、今年7月に報告書が取りまとめられたことを受けたものです。
認定基準の改正のポイント
まず始めに、認定基準では、認定要件を定め、心理的負荷の業務起因性や負荷の強度を判断しています。
・対象疾病を発病しているか
・発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
・業務以外の心理的負荷および個体測要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
そして、今回の認定基準改正のポイントは、大きく以下の3つとなっています。
1.業務による心理的負荷評価表の見直し
2.精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
3.医学意見の収集方法を効率化
業務による心理的負荷評価表の見直し
業務による心理的負荷の判断の指標とされているものが心理的負荷評価表です。
具体的出来事についてどのような視点から評価されるかや、具体例を示して不可の強度を3段階に分けています。
今回の改正では、具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(カスハラ)」「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」が追加されました。
また、心理的負荷の強度が強、中、弱となる具体例を拡充するといった見直しもされました。
精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
前は、悪化前おおむね6か月以内に特別な出来事がないと、業務起因性を認めていませんでした。
今回の改正では、悪化前おおむね6か月以内に特別な出来事がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」によって悪化した時は、悪化した部分について業務起因性を認めることになりました。
医学意見の収集方法を効率化
前は、自殺や業務による心理的負荷が強か判断し難い事案や、明確に強に該当しても業務以外の心理的負荷や個体側要因が認められる事案については、認定要件を満たすかどうかは専門医3名の合議が必要でした。
改正後は、心理的負荷の評価が強に該当することが明らかであって、業務以外の心理的負荷や個体側要因に顕著なものが認められないときは、一部を除いて主治医の意見を求めて要件を見たすか判断することになりました。
ただし、専門医または労働基準監督署長が高度な何段が必要とした事案は、今まで通り専門医3名の合議による意見を求め、それにより決定することとされました。
まとめ
1.業務による心理的負荷評価表の見直しが行われた
・「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)を受けたこと」「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」といった具体的出来事が追加された。
・心理的負荷の強度が強・中・弱となる具体例の拡充があった。
2.精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲の見直しが行われた
・改正後は、悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認めることとされた。
3.医学意見の収集方法の効率化が行われた。
・特に困難なものを除き専門医1名の意見で決定できるように変更された。
参考
「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34888.html
「令和4年度 過労死等の労災補償状況」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33879.html