新聞を読んでいたら、労働者災害補償保険(以下労災保険)の遺族補償年金について、男女による差があることについての裁判所の判断が記事になってました。
戦前の日本では、夫が外で働いて、妻が留守を守るというのは当たり前でした。
また、戦後の高度経済期の日本でも、男性が会社で働いて、女性が専業主婦になって家事を行うといったことが当たり前のスタイルでした。
このように共働きが当たり前となったのは、結構最近のことなので、社会保障の給付には男女格差は当然のごとく存在しています。
例えば、「寡婦年金」や「中高齢寡婦加算」は、女性が対象で男性にはありません。
社会保障制度の男女格差については徐々に解消されつつありますが、完全な平等になるには男女共働きだけでなく、働く人の意識改革も必要となることでしょう。
格差が解消されるのはまだまだ先になりそうです。
労災保険の遺族補償年金で男女差が「合憲」との判断
労災保険の遺族補償年金の規定が、夫を亡くした妻に無条件で支給する一方で、妻を亡くした夫に対しては年齢制限を設けていることが、憲法14条の「法の下の平等」に違反するかどうかが最高裁まで争われました。
最高裁で争われた結果、遺族補償年金の男女差について「合憲」との判断が下されました。
現在の遺族補償年金の規定について
業務中にケガや病気になった場合は、労働者災害補償保険法(以下労災保険法)という法律で定められた補償がなされます。
労災保険法では、業務中に傷病や疾病の災難に見舞われたときに補償が行われ、補償の対象となっているのは労働者です。
現在は、通勤中に災害に見舞われた結果、傷病や疾病、死亡したとしても労災保険から補償があります。
ちなみに、民間に労働者災害補償保険法があるように、地方公務員にも地方公務員災害補償法があります。
遺族補償年金を受け取れるのは、労働者の死亡時に生計維持されていた「配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹」です。
受け取れる順位もこの順番です。
配偶者が死亡して遺族補償年金を受けるためには、適用要件を満たさなければなりません。
遺族補償年金は、妻であれば年齢に関係なく受け取れます。
一方、夫の場合は年齢制限が設けられています。
夫の場合は、60歳以上(55歳以上でも受給資格がありますが、実際に給付があるのは60歳以上)というのが遺族補償年金を受け取るためには必要です。
例えば、夫が50歳のときに妻が業務上の理由で死亡した場合、夫は年齢の要件を満たしませんので、遺族補償年金は支給されないことになります。
しかし、これが妻だと話が違ってきます。
つまり、妻が50才のときに夫が業務中に死亡すれば、妻は年齢要件を問われることなく遺族補償年金を受け取れます。
この点について憲法で保障している法の下の平等に反しているのではないかというのが今回の争点です。
違いは夫か妻というだけです。
遺族補償年金の男女差が争われた裁判
遺族補償年金の男女格差については、結局、最高裁まで争われました。
原告は公立中学校で教諭をしていた女性の夫です。
男性の妻は自殺で公務災害と認められましたが、当時の男性の年齢が55歳未満だったため、遺族補償年金が支給されなかったことから、訴えを起こしました。
一審の大阪地裁では、「性別で受給要件を分ける合理性は失われた」として、違憲としました。
現在の働き方について、非正規雇用が珍しくないことから、性別で受給要件を分けるのはおかしいと思う人は多いのではないでしょうか。
確かに最近は法律でも性差別を認めないというのが当たり前となりつつあります。
ところが、二審の大阪高裁では、妻に先立たれた夫より、夫を亡くした妻の方が自力の生計維持は難しいと判断されました。
つまり、逆転判決となり、遺族補償年金の男女格差は合憲との判断が下されました。
今から20年前というとまだ男女格差は当然といった風潮があった時代です。
社会的な背景を踏まえれば、合憲とするのは致し方ないことなのかもしれません。
最高裁の判決理由
最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)は、3月21日「規定は不合理でない」として合憲との判断をして、上告を棄却しました。
合憲と判断した理由は、当時の社会を踏まえ、女性は男性よりも①働く意思と能力がある人の総数である「労働力人口」が少なく、②平均賃金が低く、③非正規労働者が多い、というものでした。
これらの理由を指摘したうえで裁判官5人の判断が一致しました。
労災保険の遺族補償年金の男女差についてのまとめ
現在の遺族補償年金には、夫は60歳以上という年齢要件があるが、妻にはありません。
年齢制限について法の下の平等に反するのではないかとの裁判では、第一審で違憲とされましたが、第二審では「遺族補償年金の年齢制限は合憲」という結果になりました。
一審では違憲だったように、結構に対する判断が人によって分かれるかもしれません。
現在、政府の方で女性の社会進出を勧めていますが、当時とこれから先とでは労働環境が全然異なります。
確かに、夫と妻の扱いに差が出てしまうのは就労実態から見れば仕方のないことだと思います。
女性の社会進出にはまだ時間がかかりそうですから、平等になるのも時間がかかりそうです。