安倍政権の改革の一つに「働き方改革」があります。
働き方改革関連法は、2018年6月29日に成立しましたが、中でも三本の柱として「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」「高齢者の雇用促進」があります。
働き方改革の三本柱
1.長時間労働の是正
2.同一労働同一賃金
3.高齢者の雇用促進
三本の柱以外にも、女性の活躍促進や若者の雇用促進、育児や介護との両立支援といったものもあります。
また、働き方改革は、労働者だけでなく、働き方改革を推進している企業に対しても助成金を支給することで、企業の改革を支援しています。
働き方改革を分かりやすく解説
少子高齢化は、労働人口を減少させ、経済成長を損なう結果を招きました。
働き方改革は、働きやすい環境を整備し、社員のキャリア支援などを行うことで労働生産性を高めることを目的としています。また、女性や若者、高齢者の雇用や活躍を促進させることで、企業の業績アップ・日本経済の発展を目指しています。
ここからは、働き方改革について簡単にポイントを解説していきます。
今の日本の課題には、労働人口の減少と所得格差の是正があげられます。
日本の課題
・労働人口の減少
・所得格差、経済発展の低迷
日本は、合計特殊出生率が2未満なので、労働人口の増加が期待できません。
企業が働き方改革に取り組むことにより、社員の持てる能力を発揮できる機会を増やすことができ、また、働きやすい環境を整備することで社員は定着し、優秀な人材の採用につながることが期待されます。
働き方改革の目的
社員は、働きやすい職場環境で働くことができ、モチベーションを維持できる。
企業にとっては、生産性が向上し、結果として業績アップ・競争力アップが期待できる。
一人一人の状況に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現により、結果として優秀な人材を確保でき、社員のスキルアップも図れる。
具体的には、
1.職場環境の改善(長時間労働の是正)
2.多様な働き方の整備と正社員と非正規社員の格差是正(同一労働同一賃金の実現)
3.社員の定着と人材育成の支援(女性・若者・高齢者の雇用促進)
4.制約のある社員の活躍を支援(育児・介護・病気・障害との両立)
が掲げられています。
以上、働き方改革についてのポイントを簡単に触れてみました。
職場の働き方改革
職場の働き方改革の改善の大きなものは、「長時間労働の是正」です。
年次有給休暇(有給休暇)が10日付与されている労働者には、年5日の取得が義務付けられています。企業は、5日の有給休暇を確実に取得させなければいけません。
また、事業主の責任として「ハラスメント対策」の相談窓口の設置が義務付けられています。
長時間労働の是正
働き方改革により、時間外労働の上限が規制されたため、36協定(時間外や休日労働に関するもの・労働基準法36条)にも記載が必要となりました。
労働基準法上は、1日8時間、週40時間までが労働時間の上限とされていますが、36協定の提出により、時間外労働が可能となっています。
今回の改正により、時間外労働の上限が設けられ、36協定に「月45時間、年360時間」の記載が必要となりました。
これにより、違反した場合には罰則として、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
ただし、「臨時的な特別な事情がある場合(製品トラブルや大規模クレームへの対応など)」は例外とされていますが、この場合でも上限が定められています。
臨時的な特別な事情がある場合(例外)
1.臨時的な特別な事情がある場合であっても、時間外労働のみで年720時間が上限
2.1か月における時間外労働および休日労働できる時間は100時間未満までにすること
3.2~6か月の期間を平均していずれも月80時間以内までになること
4.月45時間を超える月は6回までとすること
有給休暇の年5日の取得義務
企業は、有給休暇が10日以上付与されている社員に対して、5日は取得させなければいけません。
5日取得させるのは義務なので、違反した場合は罰則の対象となるため、企業は時季を指定してでも有給休暇を消化させる必要があります。
ハラスメントの相談窓口の設置
生産性向上や職場環境の整備には、ハラスメント対策は欠かせません。
どういう場合にハラスメントにあたるかは、実は被害者次第ということもあります。
例えば、いくら気を付けていたとしても、相手が心理的な圧迫や嫌がらせだと感じたらハラスメントになってしまいます。
企業には、ハラスメント対策の窓口を設置する必要があります。
職場の働き方改革では、ハラスメントの意識調査を行ったり、研修することで予防することができます。
もし、ハラスメントがあった場合に備えて、企業は窓口を設置し、対応責任者を決め、今後どうすればハラスメントがなくなるかを考えなければなりません。
同一労働同一賃金
「同一労働同一賃金」は、正社員と非正規社員との間にある不合理な待遇格差を解消し、多様な働き方が可能となる社会を目指します。
今の日本では、正社員以外の非正規社員として働く人も珍しくなくなりました。
多様な働き方を認め、正社員と非正規社員との不合理な待遇格差を解消することで、優秀な人材を確保することが期待できます。
待遇は、正社員か非正規社員といった雇用形態によるものではなく、働く時間や貢献に見合うものである必要があります。
同じ仕事をして責任が同じであれば、正社員であっても非正規社員であっても待遇は同じである必要があり、もしも違うのであれば、バランスの取れた待遇差でなければ待遇格差が解消しているとはいえません。
非正規社員を雇用する際には、待遇の説明が必要であり、雇用した後は比較対象となる労働者との待遇差についての説明責任があります。
キャリア形成の支援と活躍推進
今後は、女性や若者、高齢者の雇用を推進して、能力を活用できるシステムが必要です。
働き方改革では、「女性社員の能力活用」「若者の雇用推進」「高齢者の活躍推進」といったことが掲げられています。
女性社員の能力活用
女性の活躍を推進するためには、女性が積極的に仕事に取り組める環境の整備が必要です。
1.自社の女性の活躍に関する状況の把握・課題分析
2.状況の把握・課題分析を踏まえた行動計画の策定、社内周知、公表、届け出
3.女性の活躍に関する情報公表
4.行動計画の実施・評価
企業が、行動計画の策定を行い、目標を達成した場合は助成金の支給対象となります。
若者の雇用推進
若者の採用・育成を積極的に行い、若者が仕事に対して意欲的に取り組める職場環境を整備するため、
1.人材育成方針、教育訓令計画を策定
2.若者が働きやすい職場環境を整備する(時間外労働の削減、有給休暇の促進など)
といったことを行います。
高齢者の活躍推進
高齢者にも働きやすい環境を提供し、高齢者の知識や経験を活用することが目的です。
高齢者は、フルタイムで働く必要はないため、高齢者が働きやすい職場環境を整備する必要があります。
1.高齢者の職務内容に応じた人事評価制度と賃金制度の導入
2.高齢者の希望に応じた勤務形態の構築
3.高齢者の教育訓練
4.高齢者の活用を促進するための職場環境の整備(段差への注意喚起、声掛けによる健康管理など)
制約のある社員の活用
制約のある社員の活用とは、育児のために制約のある社員、介護をしながら仕事をする社員、病気を患って治療との両立が必要な社員、障害がある社員などの活用をいいます。
育児と仕事の両立支援
育児のために制約がある社員が、離職することなく働けることができる職場環境を構築することを目指すのが目的です。
1.育児と仕事の両立支援の周知
2.制度対象者への支援
3.職場マネジメントとしての育休復帰支援プランの策定
介護と仕事の両立支援
介護のために制約がある社員が、離職することなく働けることができる職場環境を構築することが目的です。
介護離職を防止するための4つの取り組み
1.社員の介護ニーズ、介護保険の理解度などの実態把握
2.育児・介護休業法などの基準を満たしているか
3.介護に関する基本的な知識や情報提供
4.介護に直面した社員の両立支援
病気の治療と仕事の両立支援
病気を患っても、離職することなく治療しながら働ける職場環境の構築。
具体的には、
1.治療と仕事の両立に向けた方針やルールの作成
2.社員への意識啓発、両立しやすい職場風土づくり
3.両立支援に向けたきゅか・勤務制度の整備を行う
障害者の雇用促進
障害者雇用促進法により、45.5人に1人以上は障害者を雇用することが義務付けられています。
法定雇用率を未達成の企業の場合は、常用労働者100人超の企業から、障害者雇用納付金が徴収されることになっています。
働き方改革を導入した企業に対する助成金
優秀な人材を確保し業績を向上させるため、企業に対して助成金の支援が行われています。
何百、何千万円も受け取れるはずだった助成金も、申請しなければ受け取ることはできません。
また、助成金には、申請期限があるので、企業は業績向上のためにも使えるものは積極的に活用した方がいいでしょう。
長時間労働の是正のために、時間外労働の削減や有給休暇取得の促進をしたり、職場意識改善の研修を行ったり、労働時間管理のための機器を導入したなどの場合には、時間外労働等改善助成金の対象になることがあります。
同一労働同一賃金の導入を目的として、短時間であっても正社員として扱ったり、派遣・有期雇用労働者の正社員化した場合に対象となる「キャリアアップ助成金」があります。
女性の活躍に向けた行動計画を策定して、目標を達成した企業に対して支給する助成金には、「両立支援等助成金」があります。
若者の雇用を推進したり、特定訓練コース(採用5年以内で、 35 歳未満の若年労働者への訓練)を活用した場合に、助成金の対象となります。
高齢者の職場環境を整備したり、定年の引き上げを行うことで、対象となる助成金があります。
両立支援に取り組んだ企業を対象とした助成金として、両立支援等助成金(育児休業等支援・介護離職防止支援・障害や傷病治療と仕事の両立支援・)、障碍者を雇い入れた場合の助成金があります。
助成金について勘違いする人がいますが、助成金は労働者を正社員として雇用したり、職場環境を改善させたりした場合などに企業が対象になる給付であって、労働者が受け取れるものではありません。
まとめ
働き方改革は、企業にとっても働く側にとっても関係あります。
今後はテレワークによる働き方が期待されていますし、無駄な会議を減らせば時間を有効に活用できるようになります。
かつてのようなダラダラと時間をかけて働けばよいという時代は終わりを告げています。
参考
「厚生労働省 働き方改革」
「神奈川県 中小企業こそ、働き方改革を」